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名と実体…実名敬避の習俗

 2016-12-01
名と実体 
          …実名敬避の習俗



古代の日本人が抱いていたであろうと推察される「言葉」の概念は、
現代人には理解し難いほどに神秘的なものであったに違いない。
言葉には「言霊(ことだま)」という霊的な力が宿っていて、声に発した言葉は
現実の事象に影響を与え、良い言葉を発すれば、吉事が起こり、不吉な言葉を
発すれば、凶事が起こるという観念が、古代の日本人には常識的に共有されて
いたと想像される。
その根底には、古神道(仏教に侵蝕される以前の太古日本の神道)があり、
「言」は「コト」で、「事」と同一に近い概念が存在したということなので
あろう。
万葉集の作品中でも、「言霊(ことだま)の幸(さき)わう国」(巻第5 894 
山上憶良)、「言霊の扶(たす)くる国」(巻第13 3253 柿本人麿)と表現された
ように、古代の日本人には言葉に宿る神秘的な力の働きが超越的実在として、
認識され、畏敬されていたことと思われる。


第21記事1
徳島県高等学校教育研究会 国語学会HPより、源氏物語図衝立「初音」
(狩野養信筆との伝承有。 石山寺蔵)の画像を拝借。


古代に於ける言霊の観念には共感を覚えるが、自分の名も他人の名も軽々しく
口にすべきではなく、人に教えることも極力避けるべきという習俗が普遍的な
常識として、古代社会で通用していた事情は理解し難い。
千年前の宮廷小説「源氏物語」には400人以上の登場人物が居ながら、その内、
本姓名で描かれているのは藤原惟光、源良清ら数人に過ぎないということは、
現代の私たちの感覚からすれば、奇異に感じられる。

実名を秘すという傾向が強かったということは、自分の名を知られること、
または他人の名を知ることが、現実の事象に何らかの影響を与えるものと
考えられていた証であり、それは偏に、名というものが霊的人格の実体と
不分離の関係にあるという信仰が、思想の根底に在ったに違いなかろう。

一説に依れば、自分の実名を知られること、自分の実名を声に発して呼ばれる
ことは、その実名の実体である自分が軽んじられ、汚され、果ては支配される
恐れがあると考えられたのではないかということである。
それ故に、古代に在っては、女性が男性に自分の実名を明かすということは、
「あなたにこの身を任せます」「夜這いを仕掛けて来てもOKです」とのサインを
発するに等しいことであった訳である。
それほどまでに、名と実体は不分離の関係で、名というものは実体そのもの
という観念が深く浸透していたということである。


第21記事2
幕末の武士達の肖像


この様な実名敬避の習俗事情から、公式の時などにしか使用しない重要な本名
の他に、代用品としての通称名が必要となったのであろう。
古代よりずっと時代が下った幕末に於いても、本名である「諱」は日常的には
使われていなかったようである。

例えば、幕末の京洛で勇名を馳せた新撰組副長「土方歳三」であるが、
彼のフルネームは「土方歳三義豊」である。
「土方」が姓で、「義豊」が本名としての諱(いみな)であり、有名な「歳三」
は通称名としての字(あざな)である。
「義豊」という実名は、新撰組ファン以外には余り知られていないのでは
なかろうか。
「諱」は訓じて、「忌み名」とも書く。
「字」(あざな)は「禍福は糾える縄のごとし」の「糾う」(あざなう)の
「縄をなう」という「絡ませる」とか「交じ合わせる」ことから、本名と
交じ合わせて使う名という意味だったのかも知れない。
「字」は「諱」を使わない為のものであった訳である。

吉田松陰は、「吉田矩方(のりかた)」。
坂本龍馬は、「坂本直陰(なおかげ)」、後に「坂本直柔(なおなり)」。
勝海舟は、「勝 義邦(よしくに)」、後に「勝 安芳(やすよし)」。
彼らほどの有名人でも、その実名は然程、世間に知られている訳ではない。

西郷隆盛の諱「隆盛」や大久保利通の諱「利通」は現在、広く知られているが、
当時はおそらく諱で呼ばれることは稀で、それぞれ、「吉之助」どん、「一蔵」
どんと、通称名である字で呼ばれていたはずである。


古来、我が国では現代では想像も付かない程に、「名」というものを「実体」と
不分離のものとして、畏敬の念を抱き、大切に扱っていた証であろう。
名付けられたものは総べて、その実体を持つのである。



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